梶田征則監督のサンダンス授賞式レポート

ロサンゼルス空港から約一時間。
現在、オリンピックが開催されているソルトレークシティから更に車で一時間移動する、パークシティというスキーリゾート地。
そこがサンダンス映画祭の開催地である。
主催者のロバート・レッドフォードが出演した「明日に向かって撃て」の役名から命名された映画祭。
スキーとはまるで関係ない映画祭を何故わざわざ極寒のこの地、この時期にと思っていたら、そばにレッドフォード所有のスキー場があり、そこへ訪れる時期に合わせての開催が定番になったという話だ。







1985年に始まったまだ歴史の浅い映画祭ではあるが、数々の有名監督を輩出している。
初回のドラマ部門グランプリを獲得したコーエン兄弟やタランティーノ、ロバート・ロドゲリス。そのドラマ、ドキュメンタリー部門に加え、七年前からスタートしたサンダンスNHK国際映像作家賞。
これから制作する企画を脚本と過去の映像作品から審査し、世界四地域から映像作家を一名ずつ選出する。私はこの賞に選ばれた。
「ミラーを拭く男」は、平穏につつましく暮らしてきた定年間際の男が、初めて起こした人身事をきっかけに、路上のカーブミラーを拭き出し、更には全国のミラーを拭く始めるという物語。
しかし、キーポイントであるカーブミラーはどうやら海外では珍しいようで、ユタ州でも見あたらなかった。








海外の審査員にはどう伝わっているのか?そこが不思議だったのだが、現地で直接聞いてみると、カーブミラーそのものよりも描かれているテーマが万国共通だったようだ。
そういえば第一回目で同賞を得た「セントラルステーション」(その後ベルリン映画祭・金熊賞受賞)も私たちにはなじみのない代筆業がキーポイントとなっている。












授賞式は最後の日に行われ、それまでの五日間はほとんど映画を見る暇もないほど数々のミーティングがセッティングされていた。映画会社や映画専門の弁護士を初め、脚本を再考する際の参考までにとアメリカの監督や脚本家とのミーティングまでもあった。そういった意味では、目まぐるしいスケジュールではあったが非常に充実した一週間を送れた。
ミーティング場所として設けられたホスピタリティスィートは映画祭本部として借り切っているホテルのパーティルームを使用し、日夜関係者が出入りしている。その上層階は、映画祭を訪れたスターが宿泊しているらしく、玄関口に常時ガードマンが待機していた。なみに今回は、私が知っているだけでも、レッドフォードはもちろんのこと、ブラット・ピット、ロビン・ウィリアムス、ニコール・キッドマン、ジョディ・フォスター、アンディ・ガルシアなどが訪れた。ジュリエット・ルイス、ジーナ・ローランズはこのホスピタリティスィートにも現れ、一緒に記念写真を撮ってもらった。
用意してもらった宿泊先は贅沢な内装のコンドミニアムで、吹き抜けで暖炉のある大きなリビングルームと台所、そして寝室が三つ。この三部屋をサンダンスのスタッフとヨーロッパ部門受賞者、アルバニアのジェルジ・ジュヴァニ夫妻と私とで使用した。
ジェルジは、昨年度、東京国際映画祭において「スローガン」という映画でグランプリ獲得という快挙を成し遂げた男。しかし、最初はどこか寂しげで、熊のような風貌に反して物静かにワインを飲み続けていた。
英語で話しかけても少ししか話せないからと口をつぐんでしまうのだが、遠藤周作が好きだという日本びいきな一面も見せていた。同行した女優の奥さん(同映画で主演女優賞)は愛想もよく英語が堪能で対照的な印象。ところが、ジェルジも一日、二日経つにつれ何故か急に英語が話せるようになり、それに伴ってどんどん社交的にもなってきた。
授賞式前夜には、自らパーティを主催し、皆に酒をついで回った。しかし、そのパーティは私たちのコンドミニアムで行われたので、授賞式前夜というのに朝方まで眠れなかったのは言うまでもない。その席上、誰かがジェルジの奥さんはどんな女優なのだと聞いた。
すると、彼は慣れない英語で、いつになく野別熊無に語り始めた。アルバニアでは国民的女優で知らない人がいないこと。店は全て顔パスなこと。更に国の内情にまで話題が及ぶと、年間二本しか国産の映画が製作できない事情などをワインを飲みながら刻々と語り続けていた。
次の朝、台所に置かれた世界地図にふと目をやると、アルバニアのページが開かれたままだった。
授賞式は豪華な会場で大勢の人がごった返していた。しかし、お国柄か地域性か、他の映画祭と違って正装している受賞者は一人もいない。
しかしただ一人、ジェルジはネクタイ姿で授賞式に臨んだ。

ミーティングで得た貴重な情報や映画館における観客の反応の違いなど、いろいろ学んだ点も多いが、こういった同じフィルムメーカーと接触することも、日本にいては知る由もない微妙な環境の違いを肌で感じることができ、大いに勉強になった。
私にとっては充分に満足した映画祭だったが、滞在中運転手も兼ねてずっと同行してくれた通訳者、ルイスの話では、テロの影響か例年より質素になった印象は拭えないということだった。

この授賞はあくまでも脚本に対してである。映画というのは完成した作品が全て。
今は最後の仕上げ中。私もそれを心して臨みたいと思う。


2003年7月


サンダンス映画祭
http://institute.sundance.org/

<備考>
サンダンスNHK国際映像作家賞受賞者
○アメリカ部門
 アレックス・リヴェラ「スリープ・ディーラー」
○ラテンアメリカ部門
 セバスチャン・コルデロ「クロニカス」
○ヨーロッパ部門
 ジェルジ・ジュヴァニ「羊の啼き声」
○日本部門
 梶田征則「ミラーを拭く男」